
早期黄体化と遺残卵胞(LUF)
【日本人特有のDNA配列は、国際ゲノム基準の雛形とは少し違う】
この話をする前に・・日本人特有のDNAの配列があります。
「薬が効かなかったり」しても「体質だから・・・」と一括りにされてお茶を濁さざるを得なかった時代から、
個別医療への舵取りが今始まっています。
今をときめくNGS(短鎖技術による次世代シーケンサー)は、DNAの雛形に付きあせて調べていますが、
その雛形は、2003年のヒト・ゲノム解読完了での国際ゲノム基準です。
そのDNAの雛形は、ヨーロッパ系とアフリカ系の人に由来しており、一般的な日本人に特有のDNAの変化が反映されていませんでした。
そのために本来あるべき違いが検出されなかったり、間検査があったりと問題視されていました。 これが解消されつつあります。
日本人のDNAには、「神の青写真」が描かれています。「体質」というものを軽く考えなくてもよい時代が近づいています。
三つの歯車が、時空を越えてシンクロしてゆく
卵巣の中で、卵胞の成長スピードと卵子の成長スピードがリンクしていなければなりません。
卵管采から排卵した卵の集合体が取り込まれて、卵管の先で正常受精が行われて
適正な成長スピードの中で、胚(=受精卵)に必要な栄養素が卵の個性の合わせて供給されなければなりません。
着床。 胚の成長スピードと子宮内膜の成長スピードが、シンクロ(=同期)をして着床の窓(=WOI)と合って
妊娠ホルモン「P4」のチカラで子宮内膜の中に浸潤していくことがメカニズムです。
E2とP4のハーモニーがそれを実現させます。
★ ★ ★ ★
キーワードは、着床は、卵胞がまだ卵子を抱えている頃から、卵胞の中に分泌される「P4」の水面下の動きです。
1)FSHとLHのハーモニー
2)E2が、LHの上昇を通じて卵子の成熟に働きかけて、水面下の「P4」と卵巣の中でハーモニーを奏でる。
その時、強い卵は、着床の窓をすこしズレたとしても、着床ゆきます。
着床の窓を合わせるだけでは、妊娠はしない。
ズレた時に臨機応変に対応できて、 DNAの修復能力が十分になる卵が、
「着床までの道行き(みちゆき)」で、GOALに辿りつきます。

この3つの歯車が噛み合うのは大事なのですが
問題は中央の歯車が、体外で行われ、「時空」を越えても・・

しっかり受精卵と子宮内膜が同期する不思議さがあること。
採卵前・・何かがサインを送り
胚移植の時に・・また何かを送り、「時空」をつなげて
シンクロさせています。
◆LUF(黄体化未破裂卵胞)
PCOでもないのに(=卵巣の表面の膜が固くない)のに排卵しなかった。 卵胞が卵子を抱いたまま高温期に入った時。
そういうケースをLUF(=黄体化未破裂卵胞)と呼びます。
卵胞が排卵期を通過しているという点です。
その為、排卵後から育ってきた卵胞がday1を迎えてエコー画面の中に「顔」をみせたとしても
それはLUFではないです。排卵期を通過していないからです。

黒いのが卵胞です。卵胞の大きさを測ると32mmもなっています。
排卵していない排卵前の典型的なLUFです。
LUFの原因ははっきりとわかり切っていないのですが
前周期での排卵期を迎えても卵胞が破裂しない ということは、卵胞膜を破裂させる仕事をするP4の力が弱いことになります。
「黄体ホルモンは、排卵した卵が黄体に変化してそこからP4が分泌されてくる」と思っている方も多いと思いますが
排卵前のトリガー日にP4チェックがあることからも
まだ排卵していない卵胞の卵胞液に中にも、P4や男性ホルモンは分泌されています。
E2だけしか卵胞液に分泌されない訳ではないです。
D3で大きな卵胞がエコーの中に見えた時に、LUFかLUFでないか?不安になる方が多いと多いと思いますがその違いになります。
先程、「体質」の話をゲノムにからめて話しましたが・・体質はここにも存在します。出やすい人と出にくい人がいます。
若い方でも・・LUFは出る時は出ます。

イラストのように前周期の排卵を過ぎて育って来た卵( ① )はLUF(=黄体化未破裂卵胞)ではないです。
一方、 前周期の排卵前から 育って来た卵( ② )はLUFになります。
体質(薬が合わない場合ふくめての体質)によって、LUFの発生頻度は違います。
変性卵ができやすい体質の場合は、採卵周期のD3基礎値とLUF可能性は慎重になりますが・・
たいていは、移植周期のLUFでしょう。 消えてゆく度合いによって着床の窓と絡んでくるからです。
早期黄体化(=アーリーP)

早期黄体化とは、前述したLUFと生理周期でのタイミングが違います。 低温期の話になります。
低温期でP4の上昇が無い時に、P4が上がってきてしまう現象です。
大切なのは、着床する胚(=受精卵)とふかふかのベッドとなる子宮内膜の発育速度がきっちりと揃うことです。
排卵前からです。 そのチームプレーが壊れた現象が早期黄体化です。
つまり、早期黄体化とは、なんらかの原因で、P4の分泌が排卵前から起こりP4値の上昇となり、
子宮内膜が、先に分化してしまう現象です。
子宮内膜は、バトンリレーなのでE2が排卵前から、子宮内膜を厚くし、
排卵した後はP4が着床環境に子宮内膜を分化させる。
分化というのは、子宮内膜が増殖期から分泌期つまり着床期に変化することを言います。
着床の窓が開くと言ってもよいでしょう。
必要な遺伝子発現が子宮内膜にあるかどうかを見るのが、着床の窓の検査である「ERA」です。
だだし、窓があったら100%着床できるという保証はないです。移植日を個別化できるという意味合い程度で
ERAは受けられると良いと思います。
ー 早期黄体化の2つの視点 ー

早期黄体化には、2つの視点があると思います。
① 移植周期の早期黄体化
LHサージが通常よりも早すぎて、P4が早めに上昇
↓
受精卵を移植する時には、着床に最適な「旬の時期」 (着床の窓)を維持できず黄体後退が早めに行われる
着床しない。
② 採卵周期の早期黄体化
LHサージが通常よりも早すぎて、P4が早めに上昇
↓
卵子・卵丘細胞複合体(=COC)にLH受容体がしっかりと立たないと卵子は本当の意味では
卵子成熟は出来ないままに、培養ステージに上がることになる。
↓
1)採卵前で卵胞が消えてゆく卵子のアポトーシス(=細胞死)
2)培養ステージにあがってからの胚のアポトーシス(=細胞死)
これらのうち、どちらの立場で考えるか?によって見る景色は変わってきます。
① 移植周期の早期黄体化について

今まで書いてきたのが移植周期にはP4上昇である早期黄体化は、
着床期の子宮内膜に対する現象(子宮の受容能の低下)による妊娠率の低下を意味しています。
平たくいうと・・早く出来上がった着床用のベッドは、卵を戻す時には崩れている・・着床の旬(=着床の窓)がズレてしまっている
ことを懸念していることになります。
着床の窓は個人差があるので、年齢の高い方の7割が2日後方にずれているという意見もあれば、個人差があるので
そこにあてはまらない高齢患者もいます。
着床の窓というと、ドンピシャでないと窓がしまっていて受精卵が入れないと思いがちですが、遺伝子発現チェックで窓がしまって
いても妊娠しているヒトも多いので、自然の摂理の偉大さを感じます。
ちなみに一般的な患者さんの10人中3人はズレていると言われています。
1) 通常ケース (着床の窓のタイミングが良好)
2) 良くないケース(着床の窓のタイミング合っていない) のイラストをご覧ください。
窓さえあっていれば着床できる訳ではないところが悩ましいところです。
着床は、胚(=受精卵)の成長スピードと子宮内膜の成長スピードが綺麗にシンクロしてないと実現しません。


② 採卵周期の早期黄体化について

この論点は、主治医の先生でも意見がわかれるところです。
①の移植周期の早期黄体化は認めても、②の採卵周期の早期黄体化は問題ないという先生もいれば、そうではない
受精卵のグレードにも影響を及ぼす可能性もあるのだという先生もいます。
色々な論文が交錯しています。
②に対して肯定的なものをあげると
IVF(体外)やICSI(顕微)サイクルにおけるP4レベルに関連した胚盤胞になる率と早期黄体化は関連しているというもの。
採卵前の卵胞液には、卵子を包んだ卵母細胞が入っているのですが、その成熟誘導において血清P4の上昇が
胚盤胞の形成速度を低下させる。
これは卵子を包んだ卵母細胞(=COC)において、採卵周期のトリガーを入れる日のP4の上昇は、
採卵して体外で培養する時の卵母細胞の質を落とし、卵子にも影響があるから胚盤胞になるスピードが落ちるというものです。
採卵前(=トリガーの日)のP4が高いと胚盤胞のグレードにも影響があるという論文です。

私は、②の考えに肯定的です。 このイラストは、採卵後のディッシュに置かれた卵子の状態ですが、赤が卵子です。
卵母細胞の栄養も毒も、卵子の細胞に影響があります。
着床の窓を個別化しても着床しないのはなぜ?

このページは、HPのこちらの記事で書いています。
↑ 「早期黄体化(Early P)の2面性」
こちらは、着床の条件や・・
着床時の胚盤胞の周りで起こる必要な炎症 そして 着床の時の必要な炎症を細かく説明しています。
それにしても、炎症の元になるPG(=ブロスタグランディン)には不思議なチカラがあります。
そのPGの産生仮定においても 神々しさがあります。
一筋縄ではいかないヒトの妊娠には、蓋をあけると様々なメカニズムがあります。
でも、それはまだホンの一部分しか分かっていません。
夜空の見上げる星空のようにホンの一部です。

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