この2つの黄体ホルモン製剤を、少し突っ込んで詳細に説明します。


「なにが・・どう違うのよ?」
ルトラールやデュファストンは、体外受精だけではなく一般不妊治療治療(AIH等)にも使われるので、次のような悩みを
持っている方も少なくないと思います。
「ルトラールが太る(脂肪蓄積)のはなぜ?」
「デュファストンでも太るのはなぜ?」
「高温期が伸びたけど・・姙娠しない」
「デュファストンを内服中に生理が来てしまった」
「体温が上がると言われているルトラールでも、体温が上昇しない」
「遺残卵胞が前よりも出るようになった気がする」
「体外での黄体補充を、ウトロゲスタン膣錠でなく、ルトラールに変えることをドクターから提案を受けたが心配です」
このように色々と・・それぞれのステージによって悩みがあります。

★ 難しい内容だと感じる方もいると思うので・・平たい言葉でいいますね。
「脂肪細胞」って大事ってことです。
脂肪細胞は男性ホルモンとくっつきやすい!です。その為 ルトラールとデュファストンは
どっちが男性ホルモンとくっつきやすいか? 全部黄体ホルモン作用だけのP4製剤ならばいいのですが
それぞれメリットとデメリットがあります。
大切なのは・・「あなたの肝臓はどっちが好きですか?!」ということ。
高温期が伸びるメカニズム

「・・・・でさぁ 私は今 高温期が伸びていてそわそわしているよ。」
「妊娠しているか? それともそうじゃないのか?不安なの。 基礎体温が落ちてきて心配なの。」
「ルトラールとデュファストンどっちでもいいから・・太っても構わないから陽性が欲しい」
by Little My
高温期を伸ばすには2つの方法がある。

高温期が伸びるのはなぜでしょうか?
高温期がなかなか来なくて、しびれを切らして・・クリニックに電話をかけて内診予約をして採血してもらった経験がある人も
いると思います。
「(ホルモン結果を見ながら・・)E2はまだ高いから そろそろかな?」とか聞いたことはありますか?
つまり、生理が近づいてきても、E2の血中濃度がストンと落ちずにずるずるとE2が伸びていたならば高温期は伸びます。
アンドロゲン作用が効いていて、男性ホルモン(テストステロン)から女性ホルモン(エストゲン、エストラジオール、E2)に
酵素変換が効いていれば、高温期は伸びることになります。
図に書くと・・

高温期の子宮内膜は、E2とP4のバランスで実現します。
着床期の▽の窓に、胚盤胞がハマっていたら姙娠し高温期は伸びますが
上の赤い胚盤胞のように▽を外しても、高温期は伸びるから・・悩ましい訳です。
伸びる要因は・・
YELLOWのバーである「P4」が、E2よりも早めに落ちて、E2主体で伸びると「高温期」は伸びます。
【補足事項】
高温期の中期から後期にかけて、男性ホルモンが多いとマゼンダ色の帯(E2)は伸びてゆきます。
詳しくは、DHEAサプリ・セービングのページを参照。
↑ 「DHEAサプリ・セービング周期」
P4製剤が、純粋にP4を上げるだけではない!

ルトラールやデュファストンなどのP4製剤が、純粋にP4(黄体ホルモン)をあげるだけの働きでなく、他の働きがあることを
知って欲しいです。
「P4(=黄体ホルモン)は、子宮内膜を厚くして、胚(=受精卵)の着床を促し着床後の高温期を維持する」と聞かされて
P4製剤をハイと渡されると・・誰でもそう思うと思います。
この「 」の文章を読むとE2の事が隠れています。 綺麗に隠れています。
高温期の子宮内膜は、E2とP4の綺麗なハーモニーなのです。 綺麗なと書いたのには理由があり「ハーモニー」は崩れる時があるから。
P4製剤には、純粋に黄体ホルモン活性をあげる「プロゲストーゲン」という働きがあります。
そのプロゲストーゲンを強化したいと思うと、そこに隠されている「アンドロゲン作用」が現れてしまいます。
どうにかして・・ そのアンドロゲン作用を消したいと思う・思わないの差が、
デュファストンとルトラールの差になります。
アンドロゲン作用とは、男性ホルモンの働きのことであり、「脂肪細胞」と密接な関係があります。
P4製剤には様々な種類がありますが、それぞれ工夫がされています。
① アンドゲン作用をどうするか?
② P4活性をどれだけ取るか?
排卵の抑制をどの位強化するか? つまりP4をどの位働かせて子宮内膜をサポートするか?
⇒ 排卵抑制とはゴナドトロピンであるFSHとLHの抑制作用です。
あまり強めると、高温期でも育ってきているとても小さな卵胞の成長にブレーキをかけすぎてしまいます。
⇒ 次周期の遺残卵胞(LUF、黄体化未破裂卵胞のこと)の発生頻度

こんな感じになり悩ましくなり、それが ある人には合う、合わないが出てきます。
飲み薬ですから、「腸」から「肝臓」へのルートもあり、本来とりたい「プロゲステロン活性」も
肝臓の「肝初回通過効果」を受けてしまうのでは、かなり不活性化されてしまいパワーを取られてしまいます。
結論:ルトラールとデュファストンの差〈詳細〉

ルトラール
●アンドロゲン作用があり、高温期が伸びる!
テストステロンから脂肪を介して、E2の変換ルートがあるので
高温期も通常は3~4日は伸びて、なおかつ 体温も薬の影響であがる。
● 脂肪細胞の増殖作用があり、太る
脂質代謝や糖代謝の影響がある。
一週間経っても、3分の1は体外に排出できない。
個人の肝機能のPOWERの差が出やすい。
(肝臓は、脂質代謝、糖代謝はもちろん、いらなくなったホルモンを解毒する仕事もしているからです。)
● アンドロゲン作用付きでも、「プロゲステロン活性」をとったので
デュファストンと比べて・・P4のパワーがパワフル
移植周期でも、天然型P4の「ウトロゲスタン膣錠」まではいかないまではも十分に対応できる。
● 当然、高温期での排卵抑制が効くので
遺残卵胞の発生を少しはブレーキをかけられる。
デュファストン
● アンドロゲン作用が全くないので、「天然プロゲステロン」っぽく、高温期が必要以上に伸びない。
テストステロンから脂肪を介して、E2の変換ルートにあまり行かないので無駄なE2産生を抑えられる。
ルトラールみたいに、E2を伸ばして必要以上の期待をさせない。
でも体温は上がらない。
● 太りにくい
これもアンドロゲン作用(=脂肪細胞の増殖)がない為。
● 強度のチョコレート嚢胞持ちの人や、高齢で子宮筋腫の成長スピードが心配な方にも安心
E2をあまり上げたくない、エストロゲン依存性疾患の「子宮内膜症」の保険対応の治療薬にもなっている。
● 「プロゲステロン活性」がルトラール程は強くない。P4パワーがノーマル
凍結胚移植(HRT)ではなく、新鮮胚移植やAIHに向いている。
(海外の論文多数は新鮮胚データである)
● 排卵抑制が弱いので、人によっては遺残卵胞が出やすい。
でも、あまり排卵抑制を強めてしまうと、次周期の卵胞サイクルに影響が出てくるので
次のDay1のAFC(生理中のエコーで見える小さな卵胞)を少しでも多くして採卵チャンスを失いたくない人に向いてる。
デュファストンは、連続採卵ドミノ移植や・連続AIHに向いている。
男性ホルモンと脂肪細胞

男性ホルモン(アンドロゲン作用)の有無で、P4製剤を見てきましたが。
男性ホルモンと女性ホルモン(E2)は正反対の働きをします。 脂肪細胞を介して。
E2は、本来 LDLコレステロール(悪玉)を減少させて、HDLコレステロール(善玉)を増加させますが
アンドロゲンは、逆であり・・ LDLコレステロール(悪玉)を増加させて、HDLコレステロール(善玉)を減少させます。
つまり、血管中で考えると、肥満は血栓ができやすくなったりする生活習慣病にもリンクしてきます。
PCOやPCOSの人で脂質代謝や糖代謝が気になる方が多いと思いますが
卵胞の細胞レベルでみてもわかります。
男性ホルモンと卵胞


T(男性ホルモン)は、卵胞の莢膜細胞や副腎で産生されて
変換酵素(アロマターゼ、CYP19A1)によって
内側の顆粒膜細胞でE2(女性ホルモン)に変換されていきます。
卵胞の成長には男性ホルモンは重要な材料になります。
一方、
水色の部分が卵胞の中です。男性ホルモン優位ならばT(テストステロン)も
多くなり脂肪細胞がE2が変換の邪魔をしてE2がしっかり上がらなくなります。

PCOやPCOSの方や、卵巣低反応者(主に年齢の高いかた)の卵胞は、膜が硬くなりがちです。
通常、卵胞の莢膜細胞(BLUEの部分)で、LHを受けて男性ホルモン(アンドロゲン)が作られて、それを材料に
今度は、顆粒膜細胞(YELLOW)の部分おいて、E2が産生されます。
この絵に書いていませんが、脂肪細胞も介在しています。 男性ホルモンが介在することは脂肪細胞も働いていることになります。
PCOの人は、卵胞こそ多いのでE2は上がるが・・上記のイラストの卵胞の卵胞液の中のE2の分泌だけでなくP4の分泌も
まだ排卵させる前に一定量の濃度が必要です。 それがないとただでさえ固くなった太い莢膜細胞を
破裂させるP4がパワーが効かなくなったり、E2は上がっているのに卵子が成熟しにくくなったりします。
腸と肝臓を整えて、肝臓での代謝をよくしてゆく生活習慣を心がけてください。
肝臓の中のあるメカニズムによって、ホルモンを運ぶトラックが、フリーテストステロンと結合されて
男性化症状が改善されるのは有名な話です。
つまり、膜が固くならずに、排卵前でなく、排卵後の子宮内膜の黄体機能を促進してゆきます。
黄体機能をしっかりと効かせる為に・・

黄体機能不全のケーススタディー①
黄体機能不全という言葉は、最近あまり使われなくなりました。 それは下図でもわかるように高温期だけに限定できないからです。
今回のルトラールとデュファストンの違いというブログ記事でも、何が男性ホルモンとくっつきやすいか?脂肪細胞になりやすいか?
それがテーマでした。 黄体機能がしっかり効かないというGOALの前に原因がさまざまに広がっております。
低温期・低温期後期・排卵期・黄体期と・・P4のチカラは影響があります。だからP4は妊娠ホルモンと呼ばれるわけです。

上述した黄体機能不全の3ブロック(低温期・排卵期・高温期)がいかにつながっているか?ケーススタディでみてみましょう。
全部を説明するとぼやけるので 排卵期にフォーカスしてみます。染色体異常の発生POINTだからです。
排卵期でよい排卵をするか?悪い排卵をするか?によって成績が変わってくる
「自然周期、 新鮮胚移植(採卵後・・胚盤胞になるまで外部で培養してから移植)」で考えてみましょう。

【図の説明】
2周期連続した「生理周期」と 「正常な黄体機能」を比較してみてください。
P4の部分は「YELLO」 ⊿❏で書いています。 P4活性が切れるとストンと落ちます。
全周期は排卵はしっかりとしていたが、高温期で早めにP4活性が切れて、E2のみになり生理がずるずると伸びるグラフです。
生理が伸びたから、翌周期の移植にマイナスになる訳ではなく、
E2だけが伸びた原因、P4活性が切れて原因を探ることが大事です。 ※カンファレンスではここも分析してゆきます。
男性ホルモン(アンドロゲン受容体)とか脂肪代謝とかそういう話になります。
特に通常のE2産生メカニズムからズレて、イレギュラーなE2産生におちいった時に、図のようにE2の棒グラフが伸びます。
・薬剤 ・サプリメント ・偏った食事 でも イレギュラーなE2産生は起こり、
採卵だったら卵胞経とE2血中濃度にズレが生じます。その結果、卵子の成熟にも影響ができてます。
図の今周期は、「自然周期 採卵+新鮮胚移植(胚盤胞)」です。
これは高齢妊活者の方が良くある例を書いています。
早期のLHサージ ⇒ 早期黄体化 ⇒ 機能的黄体化のタイミングの狂い ⇒卵子成熟のアクセルの甘さ
⇒ 排卵後のP4の産生(内因性)の緩さ
⇒ 早期黄体化によって子宮内膜が早めに胚受容時期を迎えて、胚盤胞を新鮮胚移植した時は着床の「旬」を逃す
⇒ 着床の窓のズレ
⇒ 【子宮の問題】赤ちゃんになる卵でも、ズレによって「化学流産(ケミカル)」で終わってしまう
または、
【卵の問題】 機能的黄体化がしっかりとできなかった為、採卵前の卵胞内において
COC(=卵・卵丘細胞複合体)が、卵胞の内側の「卵胞壁」からきれいに剥がれずに
採卵しても変性卵・空胞に終わってしまう。
あるいは・・ COCにLH受容体の発現が少ないのでGVやMⅠで採卵してもMⅡ化せずに
受精ステージまでいけない。移植もキャンセルになる。
すごく極端な例を書きましたが、
このように黄体機能不全は高温期だけでなく、低温期・排卵期・黄体期に渡って原因を広げてます。
それぞれの周期で何が必要か?考えることが大事になります。
それはネットで他人の妊娠に効いたから私も取り入れてみようかな?という「他人視線」では難しいので
主治医との医療コミュニケ-ションと、数値にあわせた栄養管理・サプリ管理・運動・睡眠の両軸が必要です。
そして、その両軸を支えるBODYワークが、メンタルになります。
詳しくは・・・こちらの記事をご覧下さいませ。
↑ 「黄体期だけはない!!黄体機能不全」

「小難しいわね・・ 電話で直接聞こうかしら?」
「とにかく前周期のケアが大事なので、次周期に移植でも採卵でも・・」
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