早期黄体化(Early P) の2面性

 

   高齢患者さんの妊娠を難しくしてものは、二つ。

 

       1) 早期のLHサージ 

             

           まだ卵子が成熟する前に・・卵胞も小さいのに、E2も上昇していないのに早期のLHサージが始まってくること。

           卵胞の成長SPEEDと卵子の成熟SPEEDがズレくる。

 

           GnRHアゴニスト(鼻スプレー)を使ったロング・ショートなどの誘発方法はそれを消す為にスタートした。

           GnRHアンタゴニスト(セトロタイド、ガニレスト)を使ったアンタゴニスト法が生まれた。

 

           アンタゴ下の誘発では、早期のLHサージは抑制されて水面下で卵子がの成熟が進むので

           低・中・高刺激とレンジをかえてコントロールするアンタゴニストの難しさが生まれた。

           

       2) 早期黄体化(=Early P)

 

                                       LHから始まるP4の上昇は、P4の上昇のタイミングではなく、そのアクセルが抜けた時のタイミングの方が

           でかい。E2の世界(卵胞期)からP4の世界(高温期)の景色が早めに変わってしまう。

 

           卵子を抱えている卵胞は、顆粒膜細胞が機能だけ黄体して卵胞の中にP4を分泌し始めます(機能的黄体化)。

           E2世界からP4の世界の間にあるこの貴重の瞬間が本来のパワーを発揮できない。

 

           1)早期黄体化が早めに始まると・・ 卵を迎える頃の子宮内膜の状態の旬は早めに崩れてしまうリスク

                                                   (着床の窓の話)

                 本来 妊娠できるはずの卵(良好胚や正常胚)ですらケミカル(化学流産)で終ってしまう

                 かもしれない。

 

           2)早期黄体化が早めに始まると・・ 

                 卵子の成熟に必要な時「機能的黄体化」の長さが十分ではなく

                 アクセルを踏んでいる時間そのものが短くなり、中途半端な排卵になってしまうリスク

 

                 アンタゴニスト法ならばGV期での採卵ならば、外部でも本来MⅡになれて受精能を持てたのに

                 MⅡ(=成熟卵)化せずに息絶えてしまうことなど。

 

 

 

 

 

  このように E2の世界   ⇒ 機能的黄体化  ⇒  排卵 ⇒      P4の世界  の流れが重要になります。

        (卵胞期)    (卵胞期・後期)          (初期の黄体期・胚受容期)

       

                        ↑ この部分に       ↑この部分に

        「卵胞期・後期」「機能的黄体化」があります。       受精卵を受け入れる「胚受容期」あります。

                                     

 

                   DNAがRNAに刷り込みをして生理作用が始まることで活発になります。

 

                   移植(HRT:ホルモン補充周期)ならばP4製剤の投入のタイミングが重要になるのは

                   この生理作用を的確に行わさせる為です。

 

                   P4はPR(=黄体ホルモン受容体)と凸凹が噛み合って初めてRNAのストーリーが始まります。

 

                   一方

                   移植(自然周期あるいは準・自然周期)では、その周期に巡ってくる卵胞のクセと

                   排卵のクォリティーが、着床期の子宮内膜の状態を左右します。

                  

                      

◆ 卵胞期〈後期〉経由の排卵のメカニズム

 

 

排卵のメカニズムを書きますが

   高いE2のピーク → LHサージがスタート → 顆粒膜細胞からP4が分泌して卵胞液内に分泌 →機能的黄体化スタート

 

   → 卵子が成熟する(COCの卵胞壁から分離) → 機能的黄体化完了 

 

   →フィニッシュでP4をトリガーにして・・卵胞を破らせる → 排卵!!

 

 

   ここで 早期LHサージが起こると 早期の段階で「早期黄体化」が起こってしまい、上記のメカニズムを崩す訳です。

 

                                         ※ 崩した後のリスクは後述します。

 


FAQ

 

Q:先程・・アクセルが抜けた時という表現は どういう意味ですか?!

 

 

早期黄体化を・・

一言でいったならば、「失速感のような感じ」でしょうか?

 

 

 

機能的黄体化をしている時間を「アクセルを踏んでいる時間」と仮定したならば、

そのアクセルを踏み切れていないまま

アクセルを抜いた時の変化をいいます。すごく観念的な表現かも知れません。

 

 

良い排卵をするというのは、そのアクセルを踏み切ることです。

 

      

アンタゴニスト法は、マニュアルのクルマの運転に似ているので、

その表現を使っています。

 

 

 

助手席に座っている方は、「ガクン!」と違和感を感じます。

早期黄体化には、2つの視点があると思います。

       ① 移植周期の早期黄体化

           LHサージが通常よりも早すぎて、P4が早めに上昇

                   ↓

           受精卵を移植する時には、着床に最適な「旬の時期」 (着床の窓)を維持できず黄体後退が早めに行われる

           着床しない。

 

       ② 採卵周期の早期黄体化

           LHサージが通常よりも早すぎて、P4が早めに上昇

                   ↓

           卵子・卵丘細胞複合体(=COC)にLH受容体がしっかりと立たないと卵子は本当の意味では

           卵子成熟は出来ないままに、培養ステージに上がることになる。

                   ↓

           1)採卵前で卵胞が消えてゆく卵子のアポトーシス(=細胞死)

           2)培養ステージにあがってからの胚のアポトーシス(=細胞死)

 

   これらのうち、どちらの立場で考えるか?によって見る景色は変わってきます。

   


① 移植周期の早期黄体化について

 

今まで書いてきたのが移植周期にはP4上昇である早期黄体化は、

着床期の子宮内膜に対する現象(子宮の受容能の低下)による妊娠率の低下を意味しています。

 

平たくいうと・・早く出来上がった着床用のベッドは、卵を戻す時には崩れている・・着床の旬(=着床の窓)がズレてしまっている

ことを懸念していることになります。

 

着床の窓は個人差があるので、年齢の高い方の7割が2日後方にずれているという意見もあれば、個人差があるので

そこにあてはまらない高齢患者もいます。

 

着床の窓というと、ドンピシャでないと窓がしまっていて受精卵が入れないと思いがちですが、遺伝子発現チェックで窓がしまって

いても妊娠しているヒトも多いので、自然の摂理の偉大さを感じます。

 

ちなみに一般的な患者さんの10人中3人はズレていると言われています。

     1) 通常ケース  (着床の窓のタイミングが良好)

     2) 良くないケース(着床の窓のタイミング合っていない)   のイラストをご覧ください。

 

  窓さえあっていれば着床できる訳ではないところが悩ましいところです。

  着床は、胚(=受精卵)の成長スピードと子宮内膜の成長スピードが綺麗にシンクロしてないと実現しません。

 

  

 

 

 


② 採卵周期の早期黄体化について

 

この論点は、主治医の先生でも意見がわかれるところです。

 

①の移植周期の早期黄体化は認めても、②の採卵周期の早期黄体化は問題ないという先生もいれば、そうではない

 

 受精卵のグレードにも影響を及ぼす可能性もあるのだという先生もいます。

 

色々な論文が交錯しています。

 

②に対して肯定的なものをあげると

  IVF(体外)やICSI(顕微)サイクルにおけるP4レベルに関連した胚盤胞になる率と早期黄体化は関連しているというもの。

 

  採卵前の卵胞液には、卵子を包んだ卵母細胞が入っているのですが、その成熟誘導において血清P4の上昇が

  胚盤胞の形成速度を低下させる。

 

  これは卵子を包んだ卵母細胞(=COC)において、採卵周期のトリガーを入れる日のP4の上昇は、

  採卵して体外で培養する時の卵母細胞の質を落とし、卵子にも影響があるから胚盤胞になるスピードが落ちるというものです。

 

  採卵前(=トリガーの日)のP4が高いと胚盤胞のグレードにも影響があるという論文です。

 

 

 

  


悩ましい採卵周期の早期黄体化

 

   まず早期黄体化をしても、体外受精では採卵の運びになります。 

 

   通常の一般治療(タイミングやAIH)ならば、卵胞の壁を破らないと排卵をしないのですが

   体外受精では、採卵針を入れて吸引するので・取れてしまいます。

 

   

 

 

 

一般治療では、卵胞の膜を破るのは、

機能的黄体化の完成によるものです。

 

 

顆粒膜細胞が、機能だけは黄体化することで

排卵する為に卵胞の膜をブシュ~!!と破ることができます。

 

 

 

   ここで、考えてもらいたい患者さんがいます。

 

 

   PCO・PCOS(多嚢胞)の方たちです。

 

 

 

   PCOは、裾野が広く症状も様々です。

 

   軽い排卵障害ならば、卵管性の原因ですから

 

   それほど改善策は見つけやすいですが。

 

   でも・・難治性までこじらせている例もあります。

 

 

  PCO(多嚢胞卵巣)とPCOS(多嚢胞卵巣・症候群)は

  

  左図のように違います。

 

  

  高LH血症を特徴とするこれらの疾患には

 

  悩ましい問題があります。

   

 

   多嚢胞の人のイメージは、P4があがらないというイメージを持っている方が多いと思います。排卵障害とか・・。

   

   でも、一番は卵胞期期(後期)での機能的黄体化がし難いのです。

 

   そして、その原因に早期黄体化しやすいという難所があります。

 

   

卵胞期〈中期〉


 

 

 

 

 

    早期黄体化  →

卵胞期〈後期〉


 

← 機能的黄体化 弱い


   

   早期黄体化が比較的最初のステージ(卵胞期中期・・卵胞が14mmにあたりのラインで)起こってしまう為に

   その後に機能的黄体化が十分でない状態で・・

 

 

   高いE2! 高いLH!その状態で線香花火的な弱いLHサージが、その未熟な機能的黄体化を引き起こします。

   当然 卵胞の中の卵子は成熟しにくいです。

 

   一般治療で、弱いFSH製剤(LH成分がゼロ)と弱いトリガーブレセリュアでどうにか排卵にこぎつけることが出来るますが

   着床が弱くなってしまいます。

 

      理由1)P4(黄体ホルモン)の抵抗性

            →PR(黄体ホルモン受容体)の発現性が弱い。

 

      理由2)未熟卵や、LH受容体がしっかりと発現してCOCを得ることが苦手。

 

 

   自然排卵(タイミングや人工授精)では、合ったトリガーをしなかったら排卵こそしないです。

 

   その為に通常に人よりも長く高さのある螺旋階段(採卵周期)を登る為に

   刺激も強すぎず(∵ OHSSを引き起こしてしまうから)

   でも

   刺激も弱すぎず(∵ LHが高い為に卵胞を育てるFSHがストンと落ちやすく、卵胞の成長が難しい)

 

   そして14mm以上の卵胞が5個もそだったならば慎重な先生だと採卵キャンセルするのも珍しくないです。

   OHSSも怖くリスキーなので、いい卵子が取れないと判断してしまいます。もともとアンドロゲン(T)が高いからです。

 

   早期黄体化傾向のPCOの方の卵胞は・・

   トリガー近辺でFSH製剤ではなくHMG注射(それもLH活性が高く、さらにhCG活性の高いMHGを使う)と

   莢膜細胞の血流がいっきに上昇して危険になります【OHSS】

 

   それを無理くり、セトロタイドで抑え込んでも中身である卵子は未熟等になったりするので

   主治医の経験値の差がモノをいいます。  

   

    

   このように・・

   微妙なコントールを余儀なくされる難治性のPCO患者さんもいたりします。

 

一般の高齢妊活者

 

   話をPCOの方から、一般の方に戻します。

 

   前述のように、高齢の患者さんの場合は、 早期LHサージ → 早期黄体化というリスクもあるので・・

 

   PCOの人のような早期黄体化傾向が出てきたら・・

 

   排卵抑制のセトロタイドで抑え込んでしまいP4を下げるのが体外ですので悩ましい訳です。

    

 

   

 


着床の3つの条件

 

 

着床する瞬間の子宮内膜では様々が準備がされています。 着床といってもステップがあります。

 

 

    1)胚盤胞と子宮内膜の表面の細胞の信号が合っていないとならない  (=胚対立)

 

   2)胚盤胞と子宮内膜と接着しなければならない           (=胚接着)

 

   3)着床した後に胚盤胞が子宮内膜の奥に「低酸素環境下」において

                       浸潤していかなければならない(=胚浸潤)

 

ここでは簡単に、説明しますが

 

    (1)と(2)を実現する為に次のような条件が必要になります。

 

   子宮内膜の前脱落膜化を実現させる為に、子宮収縮をおこさせないこと。

 

   子宮内膜の前脱落膜化を成功させる為に・・ 子宮収縮を促進しようとするE2(卵胞ホルモン)のチカラと

   その先走った子宮収縮を抑制しようとするP4(黄体ホルモン)のパワー・バランスが必要になります。

 

   早期黄体化は、このバランスを崩すから着床に関してマイナスに働く訳です。

  

   

   教科書どおりにE2とP4がともに協力して、着床期の子宮内膜を整えるということの本当が難しさがここにあります。

 

   (1)の対策

       シート法や2ステップ移植など。または移植プロコトルのセッティング

       ・・・etc

 

   (2)の対策

       エンブリオ・グルー(接着糊の働きをするヒアルロン酸の培養液)

       GーCSF子宮注入法 (顆粒球コロニー形成刺激因子製剤で、白血球をより多く産生させるようにする)

       スクラッチング  (金属をいれて炎症を意図的に起こす)

       子宮鏡      (   〃           、  Polyp撤去ができれば更によし)

       丁寧な移植(胚がストレスを感じさせない程度に)

       ・・・etc

 

   (3)の対策

       子宮内膜炎検査等

       抗生物質投与(古典的にはブレドニン等)   ※体質は古典的も最新的も関係なく相性です。

       ・・・etc

 

    様々な方法で、それぞれのクリニックが模索・努力しています。

    みな あなたを着床・妊娠させたいから、医療者たちが日々研鑽をしています。

 

       

       


着床の窓を個別化しても着床しないのはなぜ?

 

先程、着床の窓を合わせても着床しない卵がいるという話をしましたが、

着床には、「子宮内膜の成長スピード」と、「胚の成長スピード」が同期しなければ着床は実現しないということは

イメージしやすいと思います。

 

 

ERAで・・セット・アップしたとしても「胚と受精卵のお見合い(=胚の対立」)までかも知れません。

 

大切なのは、そこから子宮内膜に浸潤してゆくこと。(=胚の浸潤)

 

そこには、登場人物が2人います。

 

  1)胚盤胞  (その周りには適度な炎症が必要になります)

 

  2)子宮内膜 (P4による子宮収縮作用と、それを抑え込むE2のチカラのパワーバランスは、子宮収縮を促進する炎症を嫌う)

 

 

(1)と(2)は、ミクロの世界で駆け引きをしています。

  着床には、「白血球の侵入」がいる。 それは適度の炎症が局所的(イラストの子宮内膜の白い部分)が必要になるからです。

  それがないと、中に入っていけない!!

 

 

   凍結胚移植でも新鮮移植でも・・胚盤胞の周りには適度な炎症の「炎」が必要になります。

 

   一方、子宮内膜は炎症を嫌うけれども、局所的な炎症がないと着床に必要な「白血球」を呼び込めない。

 

 

   「妊娠ホルモン」と一般的には呼ばれるP4(黄体ホルモン)は、

 

    下記の炎症類似反応やタンパク分解酵素の産生を刺激します。 

 

     インターロイキン-1、コロニー刺激因子(CSF)などサイトカイン、インスリン様増殖因子(=IGF-Ⅰ)

 

     大切な!血管内皮増殖因子であるVEGFなどの成長ホルモン因子など・・

 

    一見 着床の際に現れると思っているものも、排卵前の卵胞の中に詰まっています。

 

 

 

 

     採卵の前には炎症の元になるPG(=プロスタグランジン)も入っています。

    

     適度な炎症がないとしっかりとした排卵もLHサージと協力して出来ない。 

 

     それは一周期に1個の卵子しか排卵できない人間の女性に「火」を入れています。

 

     PGを作るという仮定で、「活性酸素」も発生しているという嫌な面もありますが、活性酸素はPGを促進したり

 

     タンパク質分解酵素の産生を促進してたりとミトコンドリアDNAが裏で何かしらのサインを核DNAに送っています。

   

       

 

 だから、採卵をして凍結胚として長い間、液体窒素の中で眠っていた受精卵も・・

 

  長い時間を越えて 遠い将来に解凍されても、再び蘇るのです。 それは神秘的なことです。

 

  夜空を見上げると・・ まだまだ解明できている部分はほんの少しだけだと思います。

 

  20年後 またガラッと変わっても不思議ではありません。